はじめに:なぜ今、海外飲食店進出が注目されているのか

近年、日本食ブームの世界的な広がりや訪日外国人の急増を背景に、海外での飲食店展開を検討する法人が増加しています。ラーメン・寿司・焼肉・居酒屋など、日本発の飲食ブランドはアジア・北米・ヨーロッパを問わず高い支持を得ており、海外出店は有望な成長戦略のひとつとなっています。

一方で、海外での飲食店開業は国内と比べて格段に複雑な税務・法務手続きが伴います。進出先の税制への対応はもちろん、日本法人としての申告義務、資金移動の規制、移転価格税制など、見落とすと深刻なリスクにつながる論点が数多く存在します。

本記事では、海外飲食店開業を検討している法人の経営者・担当者に向けて、税理士の視点から重要なポイントを網羅的に解説します。

目次

1.進出形態の選択と税務上の影響

2.日本法人としての税務申告義務

3.移転価格税制への対応

4.現地における税務コンプライアンス

5.資金移動・送金規制と外為法

6.租税条約の活用

7. 海外進出前に整えるべき社内体制

8.まとめ:専門家への早期相談が成功の鍵

1.進出形態の選択と税務上の影響

① 現地法人(子会社)の設立

最も一般的な進出形態です。日本の親会社とは別の独立した法人格を現地に設けるため、リスクの隔離が可能です。現地法人が得た利益は現地の法人税に服し、日本への送金時(配当時)に源泉税が課される場合があります。

税務上の主なポイントは以下のとおりです。

  • 現地法人の欠損が日本親会社の損益に直接反映されない
  • タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の適用リスクがある
  • 配当の二重課税は租税条約や外国税額控除で軽減可能

② 支店(恒久的施設)の開設

日本法人の一部として現地に拠点を設ける形態です。支店の損益は日本法人の損益に直接合算されるため、初期の赤字を日本側で損金算入できるメリットがある反面、現地での課税と日本での課税が重複するリスクもあります。また、多くの国では外国法人の支店に対しても法人税相当の課税が行われます。

③ フランチャイズ・ライセンス供与

自社ブランドやノウハウを現地の法人に使用させる形態です。直接出店は行わず、ロイヤルティ収入を得るモデルです。現地での税務負担は限定的ですが、移転価格税制の観点からロイヤルティ料率の合理性が問われることがあります。

2.日本法人としての税務申告義務

海外に子会社や支店を設けた場合でも、日本法人としての申告・開示義務は継続します。

国外関連者に関する明細書の提出

日本法人が海外子会社(国外関連者)と取引を行う場合、法人税申告書に**国外関連者に関する明細書(別表17(4))**を添付する義務があります。飲食業では、食材の調達・ブランド使用料・経営管理費などの支払いが該当するケースがあります。

外国子会社配当益金不算入制度

日本法人が海外子会社から受け取る配当については、95%が益金不算入(非課税)となる制度があります。ただし、適用には「持株比率25%以上かつ6ヶ月以上保有」などの要件を満たす必要があります。海外飲食店からの利益還流を検討する際には、この制度を積極的に活用すべきです。

タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)

進出先の国の法人税実効税率が低い場合(目安として20%未満)、現地法人の留保利益が日本法人の所得に合算課税される可能性があります。東南アジアの一部の国や特定の経済特区での進出においては、事前にこの制度の適用可能性を確認することが不可欠です。

3.移転価格税制への対応

海外に子会社を持つ法人にとって、移転価格税制は特に重要なテーマです。

移転価格税制とは、日本法人と海外子会社の間で行われる取引(内部取引)が「独立企業間価格」と異なる場合に、課税当局が所得を再計算して課税する制度です。飲食業においては以下のような取引が対象となりえます。

  • 日本からの食材・調味料の供給価格
  • ブランド名・レシピ・ノウハウの使用に対するロイヤルティ
  • 本社から子会社への経営管理サービスフィー
  • 中央購買による食材の子会社への転売価格

日本の国税当局と現地税務当局の双方が移転価格調査を行う可能性があり、指摘を受けると多額の追徴課税が生じることがあります。事前確認制度(APA:事前確認)の活用や、適切な文書化(ローカルファイル・マスターファイル)の整備が重要です。

4.現地における税務コンプライアンス

進出先の国では、その国の税法に基づいた申告・納税が求められます。飲食業に特有の税務論点を以下にまとめます。

法人税・事業所得税

現地法人は原則として進出先の国の法人税に服します。税率は国によって大きく異なり、シンガポールは17%、タイは20%、アメリカ(連邦)は21%などとなっています(2025年時点)。また、多くの国では欠損金の繰越控除が認められていますが、繰越年数や制限は国ごとに異なります。

付加価値税(VAT・GST)

飲食業は消費者への直接販売を伴うため、付加価値税(VAT)やGSTへの対応が不可欠です。売上が一定の閾値を超えると登録義務が発生し、未登録のまま営業を続けると遡及的な追徴・ペナルティが科されるリスクがあります。また、軽減税率が飲食に適用される国も多く(EU諸国など)、税率の正確な把握が求められます。

源泉徴収税

アルバイト・パート・正社員を雇用する際、給与に対する源泉徴収義務が生じます。国によっては社会保険料の雇用主負担も重く、人件費の実質コストを正確に試算しておく必要があります。

印紙税・不動産取引税

店舗の賃貸借契約締結や取得に際して、印紙税・不動産取得税・登録免許税相当の課税が行われる国もあります。物件探しの段階からこれらのコストを見込んでおきましょう。

5.資金移動・送金規制と外為法

海外飲食店を運営するうえで、日本と現地との資金の移動は頻繁に発生します。これには日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)および現地の外為規制の両面から注意が必要です。

日本側(外為法)の手続き

日本法人が海外子会社に出資・貸付を行う場合、一定額以上については**財務大臣への事後報告(または事前届出)**が必要です。特に安全保障上の規制業種が絡む場合は事前審査が必要となるケースもありますが、飲食業は通常の業種として扱われます。

現地の送金規制

中国・インドなど一部の国では、利益の本国送還(配当・ロイヤルティ・サービスフィーの送金)に許認可や上限規制が設けられている場合があります。進出先を選定する際には、送金の自由度も重要な判断基準となります。

為替リスクへの対応

現地通貨建ての売上を円に換算する際、為替変動が損益に大きく影響します。先物予約や通貨オプションなどのヘッジ手段の活用を、財務担当者および顧問の税理士・金融機関と連携して検討しましょう。

6.租税条約の活用

日本は現在、80を超える国・地域と租税条約を締結しています。租税条約を活用することで、以下のメリットが得られます。

  • 配当・利子・ロイヤルティに対する源泉税率の軽減(例:日本・シンガポール間では配当源泉税が5%に軽減)
  • 二重課税の調整(相互協議手続き)
  • 恒久的施設(PE)の認定基準の明確化

ただし、租税条約の恩典を受けるためには、居住者証明書の取得や現地当局への申請手続きが必要な場合があります。手続きを失念すると条約上の軽減税率が適用されず、割高な源泉税が課されたままになるケースもあるため、注意が必要です。

7.海外進出前に整えるべき社内体制

税務対応と並行して、法人として以下の社内体制を整備することが重要です。

現地法人の会計・記帳体制

現地会計基準(IFRSや現地GAAPなど)に準拠した記帳が求められます。POSシステムや会計ソフトの選定において、日本本社への報告との整合性を意識した設計が必要です。

グループ間取引の契約書整備

移転価格税制への対応として、日本本社と現地子会社の間の取引については、書面による契約書を整備しておくことが不可欠です。口頭や慣行による取引は税務調査で否認リスクが高まります。

現地コンプライアンス担当者の確保

現地の税務申告・労務管理は現地の専門家(会計士・弁護士)に委託することが一般的です。日本の顧問税理士と現地専門家がスムーズに連携できるハブ体制の構築を早期に行いましょう。

8.まとめ:専門家への早期相談が成功の鍵

海外への飲食店出店は、ブランドの国際展開や収益の多角化という点で非常に魅力的な戦略です。しかし、進出形態の選択から移転価格税制・現地コンプライアンス・資金還流まで、税務上の論点は多岐にわたります。

これらを見落としたまま開業してしまうと、多額の追徴課税・ペナルティ・二重課税といったリスクが後から顕在化することになります。

重要なのは、出店を決定する前の段階から税理士に相談することです。 進出先の選定・法人設立スキームの構築・日本側の申告体制の整備まで、一貫してサポートできる専門家を早期にパートナーとして巻き込むことが、海外飲食店経営を成功させる最短ルートです。

当事務所では、海外進出を検討されている法人のお客様に対して、進出先の税制調査から日本側の申告サポート、現地専門家との連携まで、ワンストップでご支援しております。まずはお気軽にお問い合わせください。